第70回後編 遠藤久男さん(川越青果 店主)
チラシを配るとお客が減る? 御用聞きも行う八百屋
お店の中は宝探し

遠藤久男さん
| ご職業 | 川越青果(八百屋) 店主 |
| 座右の銘 | 負けない心 |
遠藤久男さんが経営する南千住の「川越青果」には開店前から人が集まります。
お目当ては彼が直接生産者から集めたり、市場で選んできた野菜や果物です。店頭に並べようとトラックから降ろした途端、ぱっとレジカゴに入れられてしまうそうで
「値段もつけていないのに」
と遠藤さんは苦笑していました。

野菜選びのアドバイス
野菜や果物の品目は毎日変わり、陳列する場所も毎回違います。そして、品目ごとにまとまって置いていません。たとえば、この日は何種類もトマトがありましたが、店内のあちらこちらに置いてあるのです。
「店内を全部見てもらうために、わざとバラバラに置いています。あっちにもありますよって、声を掛けやすいですし」
お客さまの様子を見ていると、ほとんどの人がお店の中を何周もしています。そしてお目当てのものを見つけると、とてもうれしそう。その様子は宝探しをしているように見えました。
お客様の好みはすべてアタマの中

お客様との会話を楽しむ遠藤さん

特にオススメの野菜についているシール
川越青果では店頭販売だけでなく、注文を家まで聞きにいく「御用聞き」もしています。
「今日は地味ですが、いつもはもっと派手な服を着ているんです。そして雨でも傘をささずにどこにでも行きます。いつでも見つけてもらって声を掛けてもらえるように、顔を見せて歩いているんです」
電話で頼む人、ふらっとお店を訪れてメモを渡す人、道で会った時に声を掛ける人、実にさまざま。驚いたのは遠藤さんが名前も聞かずに「わかりました!」と答えていること。どこの誰かも全部頭に入っているのだそうです。
「お客様の好みはすべてわかっているので、私が選んでもっていきます」
開店して13年、遠藤さんの人柄と努力によって、お客様とのこの強い信頼関係が築かれていったのでしょう。
地域の人のコミュニティー

プレゼントされた絵
「チラシを配ったり特売をすると逆効果で、お客が減っちゃうんです」
チラシでお客が減るとはなんとも不思議な話ですが、「落ち着いてみれない」「楽しみが減る」という常連さんが多く「チラシは書かないで」という要望が多いのだそう。お客様同士もお互い顔見知りのようで、お店はちょっとした集会所のような雰囲気です。
「看板もないので、お店を閉める時間も決まっていません。世間話とか、休憩に来る人もいるんですよね」
少し困ったように笑いながら遠藤さんは言っていましたが、毎日来たくなる気持ちが私にもよくわかりました。
レジの後ろには幼いお客様からもらった絵がいくつか飾られています。
「いつもありがとう」というメッセージとともに描かれているのは、野菜や果物に囲まれてニコニコしている遠藤さん。
青果物のやりとりの裏側にある人とのつながり。それを何より大切にしている遠藤さんの思いが、この絵を通して伝わってきました。
文・撮影:ベジタブル&フルーツマイスター 霜村春菜







