第64回後編 森 由美子さん(フランス料理研究家) 

料理を通じて、幸せになる活動の提唱者

人を繋ぐ食のパワーに魅せられ料理の道へ


修行時代の森由美子さん、異国での仲間にも恵まれました

ご職業 フランス料理研究家、
料理&菓子教室・サロン
「パリ15区」主宰
座右の銘 笑う門には福来たる

 森由美子さんが初めて食に興味を持ったのは、大学時代に所属していたテニスサークルの活動からでした。

「準体育会系の厳しいサークルで、大きい試合の日には一年女子が部員全員のお弁当をつくる義務が。はじめは苦痛だったお弁当作りでしたが、普段は話もできないような先輩たちとお弁当を機に、会話ができるようになったんです。それ以降、『人と人とのコミュニケーションを潤滑にする食のパワーってすごい!』って思うようになりました」


以前経営していたビストロ「麦」。現在の教室の前身になりました

 その後フランス料理と出会った森さんは、その深い世界にのめり込んでいきました。「やるならば本場で本物を学ばなきゃ意味がない」と一念発起し、大学卒業直後留学を果たしました。その後フランス・パリの料理学校で学び帰国。東京郊外でビストロを8年間経営、この間に仏・伊・スイスの店や家庭で研鑚を積み、その後現在の教室兼サロンを立ち上げます。

「お店は時間との勝負になってしまい、お客様、つまり人と向かい合うことができませんでした。料理を介した、一人一人の方にとっての大事な時間や空間を提供し続けたいという想いから、お店は閉め現在のようなかたちで料理をつくっていこうと決めました」
 今年で教室は14年目に突入。森さんのしっかりとした想いや目的意識こそが、この教室が支持される一番の理由でしょう。

おいしい食事は味だけにあらず


森さんの料理を通じて、人と人とが結ばれてゆきます

 森さんは毎日この教室で数多くの料理とともに、たくさんの出会いをつくり続けています。ここは料理教室であると同時に、人と人との交流が生まれるサロンという側面ももつ場。食育やアロマセラピーの講座、占いの集いなど、森さんが企画するさまざまな講座や集まりがいつも開かれています。友人同士のおしゃべりの場として、見知らぬ人たちの出会いの場として、森さんの周りは常に人でにぎわっています。

「料理のおいしさは味のみで決まるわけではありません。色、かたち、温度、食感、場の雰囲気、そして食べる人の心理状態。これらを総合して『おいしさ』は決まります。料理や食事をするだけの場ではなく、食を通して人が元気に、たとえ一瞬でも幸せ気分になっていただける場を提供できたら嬉しいです」

料理は楽しくつくること


ヘルシーなキャベツの発酵エキス。菌との付き合い方も研究テーマ

 フランス料理の研究や教室運営の一方で、日本の伝統食を研究する活動にも力を入れています。

「脈々と受け継がれてきた日本の伝統食=日本文化の灯りを消さず次世代にも手渡したい。伝統食こそ私たちが元気と美しさを保てる食でもありますから」

 そうおっしゃる森さんは、日本で発達した「発酵技術を応用した食」を若い世代につたえるべく、おうちでつくる味噌・甘酒づくりや、それらを応用した料理も考えています。たとえば甘酒をジャムにしたり、味噌をつかったフレンチをつくったりという簡単で誰でもできそうでおもしろそうな試みです。じつは、それが森さんの提案する料理のテーマでもあるのです。


幸せになる活動に取り組んでいく


見て楽しくなれる料理「アスパラ・プランタン仕立て」

 森さんの活動の根幹には「幸せになろう!」という想いがあります。

「料理は、人が幸せになるために必要なたくさんの手段の一つに過ぎない、と私は思います。私にとって、それはたまたま料理や食だっただけで、人によっては音楽・絵・踊り・スポーツなど何でもありでしょう。大事なのは、その何かの手段をおこなって心が満ちるかではないでしょうか」

 実際、森さんは料理・食という手段を用いて、人と人とを結びつけたり、人の笑顔を生み出したりする活動をおこなっています。



フランス料理研究家 森由美子さん

「長寿の方が多いコミュニティには人の絆や笑顔があるといいます。心が豊かなんです。それは生きるうえでとても大事な要素。私は料理そのものと同じくらい『楽しさ』と『真心』を提供し続けたいのです、それって人間らしい幸せへつながっていると信じるからです。
 挫折やどうしようもなく悲しい時に私の料理や提供する場が小さなランタン、淡い光のように瞬間でもそのつらい心に明るさを燈せたならこれ以上の喜びはありません。
 ちいさな一皿や、暖かい絆のある場が明日を生きる力や幸せ感を思い起こすきっかけになることもきっとあるはずです」


 お話しを伺い終えたころ、教室に生徒さんたちがいらっしゃいました。どの方々も本当に楽しそうに森さんとお話をされています。そこには確かに食が生み出した人同士の繋がりと笑顔がありました。この笑顔が別の笑顔と繋がり、新たな楽しい場をつくり出すのでしょう。それがまた森さんの料理をおいしくしているのです。

 森さんが創り出す料理は日本とフランスの料理だけに限らず、人と人、笑顔と笑顔、幸せと幸せ、それら全てをマリアージュさせる、そんな大きな力をもった「幸せの料理」のようです。



パリ15区 料理教室&サロン
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文章:ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスター 橋本哲弥
写真提供 森由美子さん