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第59回 井上 修さん(牛蒡問屋「井上青果」) 後編

食べる人にまで伝わる「ゴボウ物語」を作りたい

違う世界に飛び込み、視野を広げる

井上 修さん
井上 修さん

荷札をはる井上さん。市場に必ず顔を見せることも信頼につながります

ご職業 牛蒡問屋「井上青果」
座右の銘 進歩は常識の外にある

 川越のゴボウ問屋三代目の井上修さんは、20歳から仕事を始めて今年で16年目になります。
井上さんは小さい頃から家業を継ぐ決心をしていたそうですが、高校卒業後に選んだ学校は、意外にもシステムエンジニアを養成する専門学校でした。

「選んだ理由? 自分にない環境だと思ったから。途中で俺にはプログラミングのセンスがないってわかったけど、進学したおかげで違うタイプの友達がたくさん出来たよ」

 この間に多くの人と出会い、視野が広がったとのこと。井上さんの座右の銘「進歩は常識の外にある」をまさに体験したともいえるでしょう。

土にまで至ったゴボウの勉強



(上)良いゴボウができる土
(下)市場へ搬入される「土ごと発酵」のゴボウ

 井上さんにとって人との出会いは「偶然」ではなく「必然」なのだそうです。
 宮崎県でゴボウを生産している小林秀一さんや、「土ごと発酵」という土作りの指導をしている三輪晋さんとの出会いもそうだと言います。

「問屋は品物を集めてくることが重要な仕事だから、最初は土作りに全く興味がなかった。でも仕事をしていくうちに、ゴボウの知識がない自分に腹が立ってきて小林さんと三輪さんのもとで勉強することにしたんだ」

 畑の様子から土作りまで至った勉強は今年で6年目。土について学んでいくうちに、ゴボウに物語をつけて売りたいと考えるようになったそうです。

ゴボウの背景にある物語を作りたい


袋にはゴボウの花の色でもある紫を使っています

「かつての産地でゴボウが採れなくなった理由が土にあるとわかった。しっかりとした土から出来た健康なゴボウには虫がつかないし、樹体濃度(植物中の栄養分の濃さ)が高くなるから味も良くなる。そしてそういう良いゴボウを作っている人が生き生きと農業をしている姿も見てきた。今の自分は、そういう人たちと「土から始まる物語」を一緒に作っている途中なんだ。食べてくれる人たちにも伝わるように!」

 井上さんは今年、自分が学んできた土の勉強が地元の仲間のヒントになって欲しい考え、三輪さんを川越に呼び「土ごと発酵」の講演をしてもらったのだそうです。
 いま、その講演会に参加した何人かの生産者が「土ごと発酵」のチャレンジをはじめているとのこと。彼らはゴボウを生産しているわけではありませんが、井上さんはその様子をとてもうれしそうにみています。

自分の仕事をしっかりとすることが未来につながっていく


市場でフォークリフトを動かす井上さん

井上さんの夢は「土ごと発酵」で作ったゴボウですべての荷を揃えること、そしてゴボウ問屋という仕事を後世に残すこと。

「二人の息子には好きなことをやってほしい。いろいろなものを見て、外を知ったほうがいい。自分はしっかりと自分のやるべき仕事を続けていく。いつも同じことを繰り返しているようでも、毎日違うから、仕事にしてもゴボウにしても自分の目でしっかり見極めなければいけないんだ」

 そんな真摯な姿勢が、井上さんの扱っているゴボウの評判にもつながっています。多くの人から信頼されている井上さんは、度胸の据わった豪快さと相手を気遣う細やかさを併せ持った人でした。

文章・撮影:ベジタブル&フルーツマイスター 霜村春菜