西川 博之さん(シニア・ベジタブル&フルーツマイスター)

主役は野菜! 青果物流通を支える名サポーター

●職場は市場、朝昼「卸」で夜「講師」


シニア・ベジタブル&フルーツマイスター
西川 博之さん

 シニアマイスター西川博之さんの起床時間は午前3時。まだ日の昇らないうちに家を出て、岡山県倉敷市にある青果市場に向かいます。
 そう、西川さんの職場は、早朝に活気溢れる「市場」。青果物の卸売業者として、日々多くの農産物を取り扱っています。

「市場での仕事は夕方まで。その後講師などの野菜ソムリエの活動をします。休日は講演などがありますし......そういえば全然休んでいませんね」

 と、タフな"市場の男"を感じさせる西川さん。しかし以前は、野菜とは無縁の広告や営業をおこなう鉄道会社の社員でした。



●まずは基本、そこからは自分で考える


地産地消に関する講演会にて。伝えるのはあくまで"基本"

 西川さんと野菜ソムリエとの出会いは2002年。当時、鉄道会社にいた西川さんは、奥様の家業である卸の仕事を手伝うことになったことがきっかけでした。

 しかし、その時は野菜について全くの素人。「何か勉強する方法はないか」と探していたとき、雑誌にあった野菜ソムリエの記事を偶然目にします。すぐ講座に通い始め、ジュニアマイスターの資格を取得しました。

「まず野菜の見方が大きく変わりましたね。以前は、野菜は"工業製品"のように品質が一定で当たり前という考え方でしたが、受講後は"生き物"として野菜の個性を意識し始めました」


 西川さんは鉄道会社を退職、本格的に卸の仕事を始めます。同時に「もっと野菜の勉強がしたい」と考え、2008年にはシニアマイスターに登り詰めました。

「私の仕事と直接関係がある青果物のブランディングやマーケティングの講義がカリキュラム内にあり、是非とも学びたいと思いました。それに中途半端は嫌だったので」

 こうしてシニアマイスターになり、生活者の前で講演をする機会が増えた西川さんは、話をする上で一つ気をつけている点があります。それは、野菜の基本的な3つの見方(生き物、商品、食べ物)を伝えることです。




ジュニアマイスターの講師も担当。後進の育成も大切な活動です

「私の話をどう解釈するかは、受け手次第で良いと思います。私が『これは良い、あれは悪い』というフィルターをかけてはいけない。知識を得たら、まず五感を使って野菜をたくさん食べてほしい。そこからさらに多くの情報や選択肢を知って、各人が考えを導き出してほしいです」

 西川さんは、ジュニアマイスター講座でベジフル入門の講師や、ベジフルコミュニティ岡山の代表も勤めており、後進の野菜ソムリエにも"基本を伝える大切さ"について話しています。


「私は、野菜ソムリエは脇役であり、商品から情報を引き出して発信して伝える、良きサポート役と思っています。主役はもちろん商品、すなわち野菜です」



●生産者・卸売業者・生活者を結びつける野菜ソムリエになる


市場には、全国各地から毎日、大量の青果物がやってきます

 生産者組合などで農家の方々に話をする機会が多いことも、市場で働く西川さんならではの活動です。

「生産者は卸や小売にまかせるだけではなくて、生活者のことをもっと考えなければならないと思います。もちろん、これは卸や生活者も一緒。現在の流通はお互いの顔が見えておらず、本当に責任感を持って農産物を取り扱っているとは言えない気がするのです」


 そう話す西川さんの"流通の各ステージ(生産者・卸売業者・生活者)を繋げる"プランは、既に描かれています。

「農家自身が売場に立ち、農産物のPRをしながら販売できる機会はまだ少ない。それを解消するため、私は生産者と生活者が交流できる"ファーマーズマーケット" をつくりたいと考えています。
 かつての私がそうであったように、生活者は野菜について多くを知りません。私はまず多くの人に基本的な情報を知ってもらい、そこから生産者について関心を持ってもらいたい。そして最終的には、農産物流通の川上と川下、つまり生活者と生産者が直接コミュニケーションをとることの出来る場所や、仕組みの提案をしていきたいです」




農協での講演は、生産者に直接想いを伝えられる貴重な場

 ただし目標は高くあっても、西川さんはあくまで主役ではなく裏方に徹すると言います。
「私は市場の人間、あくまで脇役や裏方。その立場でこれから何ができるか、それを探し続けることも今後の課題です」

 表舞台に立たなくても、主役ではなくても、出来ることはある。
 当たり前のようで忘れがちな、まさに"基本"を、西川さんの活動は私たちに提案しているように感じました。




文:ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスター 橋本哲弥
写真提供:西川博之さん